税理士事務所の広告宣伝、マーケティングもVUCAな時代

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先生はVUCAという言葉を耳にしたことがありますか?
VUCAという言葉は、2010年代に一般に広まったもので、もともとはアメリカで軍事用語として使われていたもののようです。


Volatility(ボラティリティ:変動性) ・・・状況が急に変わる
Uncertainty(アンサートゥンティ:不確実性) ・・・情報が不足
Complexity(コンプレクシティ:複雑性) ・・・様々な要素が絡み合う
Ambiguity(アムビギュイティ:曖昧) ・・・情報が曖昧
という英単語の頭文字を取って「VUCA」です。社会的な背景としては、英国のEU脱退、気候変動、新型コロナウイルス感染拡大、AI(人工知能)の普及などがあげられます。こういう事件が一つの時代に立て続けに起こることを指すようです。当社の業務で考えると、コロナ禍によるオンライン化、在宅勤務の状態化、急速なIT化・DX化、Chat-GPTなどのAI登場などが分かりやすいVUCAな出来事でした。本当に立て続けに起きましたよね。

日常の業務では、訪問することが当たり前、出社するのが当たり前だったのが、一気にオンライン化することになり、「状況が急に変わり」「変化に伴う情報が不足していて」「様々な要素が絡み合い」「曖昧なまま進んだ」という状態を経験し、変化の過程では色々と痛みも伴いました。

Chat-GPT4のリリースやそれに応じたGoogleアルゴリズムの変更なども、マーケティング的には大きな出来事でした。税理士事務所さんの視点で考えると、自動仕訳、AIを用いた財務分析、在宅勤務の浸透、副業の解禁などが身近なものとして感じられるのではないかと思います。

VUCA時代の環境変化

このように、想定外な出来事が次々と起こる時代の流れを「VUCA時代」と呼びます。VUCA時代は、既存の価値観やビジネスモデルの多くが通用しなくなります。今までは良かったけれど、今の時代は許されない(またはその逆)といったことを、先生も感じたことはありませんか?これ、昭和生まれの先生であれば絶対にあるはずです。

【昔は良かったが今は許されないことの一例】

「過度な残業」「休日/土日出勤」「〇〇ハラスメント」「安すぎる賃金」「仕事の丸投げ」などが考えられます。税理士事務所さんの場合は、繁忙期というものがありますから、その時期は流石に残業というものはつきものだと思いますが、ここ数年は、繁忙期ですら定時に帰ることをルールにしている税理士事務所も世の中には存在しています。

賃上げに関するお悩みも多く、パートさんの募集をする際、現在のパートさんの水準では募集をしても人が来ないので、まずは現在のパートさんの時給をアップして、それから募集をかけなければいけないといった事態になることもチラホラと耳にします。

逆に、昔は許されなかったことも、今では問題なく通るということもあります。昭和50年生まれのおじさん的には、なかなか隔世の感があります。

【昔は許されなかったが今は大丈夫なことの一例】

「上司に意見する」「飲み会を断る」「有給休暇を取る」「会議中にPC/スマホ」「男性の育児休暇」などが考えられます。どれもが、昔はやろうとしたら怒られたり、評価に響いたり、言い出し難かったりといったことがありました。そういった風潮がありましたが、今ではそんなものは当たり前であって、それを会社側が満たせないと、もう〇〇ハラスメントになってしまいますし、会社を辞める理由に直結します。

例えば、昔(といっても10年前くらい)は、会議中にPCを操作したり、スマホをいじったりなどは「お叱り」の対象になることが多かったように感じます。「今会議中だぞ!何、スマホいじってるんだ!」といった具合です。PCで議事録を取るということも一般的ではなく、「その手を止めろ」ぐらいの勢いのことも実際よくあった光景です。

しかし、そういった光景も今ではほとんど目にしなくなりました。もちろん大事な話をしている最中にPCやスマホをいじっても良いという意味ではなく、その会議や打ち合わせに関係のあることを、デジタル機器を駆使して調査したり検索したりするために使うというケースを想定しています。

VUCA時代の考え方

VUCAというのは、特定の誰かだけが感じていることではありません。例えば、税理士事務所を探している顧客候補、紹介者、求職者等々のあらゆる人たちが巻き込まれます。税理士事務所を探す側の視点で考えると、「どの事務所を選べばよいかわからない」「情報が多すぎる」「選び方も多様化している」「どこも同じように見える」等、お客様も先行きが不透明で不確実な状況にあるということです。

その状況にある人たちに対して適切な情報発信を行い、目にとどめて頂く、事務所としての価値をしっかりと伝えて行くという取り組みを行うのが今の時代に必要な広報のあり方であると言えるのではないかと思います。

消費者視点で考えると、顧問報酬はピンキリで激安事務所もあれば、やけに高い設定の事務所も存在する。その違いがよく分からないであったり、事務所のM&Aなどで、以前の事務所名が変わってしまった、事務所の代表者が変わっていたであったり、相続に強い先生を探そうとしても選択肢がありすぎてわからなくなってしまったりなど、情報過多なこともあれば、逆に情報が少なすぎてわからないということもある。まさにVUCAです。

VUCAな時代だからこその取り組み

こういった不透明な時代であるからこそ、税理士事務所も自らの存在をPRする取り組みを行うべきであると私は考えます。パンフレットやDMなどのアナログ的な広告宣伝、ホームページやメールマガジンなどのデジタル的な広告宣伝、それに加えて、動画やSNSを駆使した情報発信です。

税理士事務所を選ぶ側の人たちが「不安定」で「選べない」状況であることを考えたときに、税理士事務所側が自ら情報を開示して、事務所の価値や考え方を伝達する努力をするのがVUCAな時代の生き残り方なのではないかと思います。
【著者プロフィール】太田亮児(おおたりょうじ)|合資会社オオタキカク 代表
税理士・会計事務所の営業、マーケティング支援を行う。起業前は東京都内にある税理士法人に勤務してマーケティング業務を専任で手掛けた。2005年にオオタキカクを設立して独立。税理士事務所の個性を活かし各事務所の強みを磨き上げオーダーメイド式でマーケティングの仕組みを作り上げるサポートを行う。2010年に「税理士・会計事務所の儲かるしかけ」を同文館出版より出版し、税理士業界に特化したサービスを展開している。税理士向けの専門紙である税理士新聞(NP通信社発行)への連載記事を手掛けていたこともある。