税理士のための「DM営業活用術」~新設法人開拓に効く紙媒体の戦略と実践ポイント~

目次

  • DM営業は税理士の新規開拓に今も有効な手法である
  • なぜ新設法人にDMが効果的なのか?
  • DM営業を始めるための3つの準備ステップ
  • 反応を高めるDMの構成とフォーマット選び
  • よくある失敗例と改善ポイント
  • 反応を得るための実践アイデア
  • 紙媒体だからこそできる“記憶に残る営業”
更新日: 2025年6月18日

DM営業は税理士の新規開拓に今も有効な手法である

デジタル広告やSNSが主流となった今の時代においても、ダイレクトメール(DM)は見直す価値のある営業手法の一つです。紙で“届く”DMは、視覚的にも物理的にも印象に残りやすく、競合が少ないぶん、相手にしっかりと届く可能性があります。 特に税理士による新設法人向けのDM営業は、実務的にも取り組みやすく成果が見込める手法です。法人設立直後の企業は、まだ顧問税理士を決めていないケースが多く、ニーズが顕在化している分、DMによるアプローチが響きやすいのです。

ただし、DMの効果を高めるには「誰に・何を・どう伝えるか」が鍵になります。相手を絞り込み、「なぜあなたにとって価値があるのか」を伝える視点が欠かせません。サービスの専門性や具体的な支援事例を織り交ぜてメッセージを構築することで、反応率が高まります。
DMは最新の手法ではありませんが、丁寧な戦略と工夫次第で、“今も使える営業ツール”として活かせる手段のひとつです。
ダイレクトメール

なぜ新設法人にDMが効果的なのか?

新設法人は、税理士によるダイレクトメール(DM)営業の中でも、もっとも成果が出やすいターゲット層のひとつです。その理由は大きく3つあります。

まず第一に、設立初期の企業は顧問税理士を探している段階であることが多く、ニーズが顕在化しているという点です。税務申告、設立後の資金繰り、助成金・融資などの対応に迫られ、専門家を必要としている時期にあたるため、タイミングとして非常に効果的です。

第二に、DMは紙媒体として“手元に残る”強みがあります。Web広告やSNSが流れていくのに対し、郵送で届いた情報は後から見直されることも多く、事務所のパンフレットや名刺などと合わせて保存されやすい傾向があります。

第三に、地域密着型の事務所であれば、住所・電話番号が明記されたDMは地元企業にとって親近感や信頼感を持たれやすいという利点があります。地元の税理士というだけで、「話しやすそう」「相談しやすそう」といった印象を与えやすくなります。

このように、新設法人は情報を必要とし、かつDMの性質と相性の良いタイミングにいる存在です。営業先としての優先度は、決して低くありません。
新設法人向けDM戦略

DM営業を始めるための3つの準備ステップ

DM営業を成功させるには、送る前の「準備段階」が成果の8割を決めると言っても過言ではありません。特に税理士が新設法人などを対象にDMを行う場合、事前の3つのステップが非常に重要です。

まず1つ目は、リストの選定です。誰に届けるかが曖昧な状態では、効果は見込めません。新設法人を狙う場合は、法人登記情報を扱う名簿会社から定期的にデータを購入するのが一般的です。業種別や地域別など、自事務所の強みと照らし合わせて選定することが鍵です。

2つ目は、ターゲットの絞り込みです。たとえば「開業から3か月以内」「資本金1,000万円未満」「飲食・医療業種限定」といった条件を設けることで、メッセージがより相手に届きやすくなります。広くばらまくのではなく、刺さる相手を見極めることが反応率に直結します。

そして3つ目は、DM内容の設計です。単なる事務所紹介ではなく、「こういう課題を抱える企業に、こういう支援ができる」という問題解決型の提案にすることが大切です。専門性、支援実績、顧問契約後の流れなどを明示することで、受け手の関心を引きます。

この3ステップを丁寧に行うことで、DM営業は単なる郵送ではなく、見込み顧客との接点をつくる“戦略的アプローチ”になります。
成功するDM営業へのステップ

反応を高めるDMの構成とフォーマット選び

DM営業で成果を上げるには、誰に送るかだけでなく、「どのような形式で」「どんな構成で」届けるかが極めて重要です。特に税理士としての専門性を効果的に伝えるためには、フォーマットと文章設計の工夫が、反応率を左右します。

まず、封筒形式かはがき形式かの選択です。封筒形式は中に複数の資料を同封でき、より丁寧な印象を与えられます。対してはがき形式は手軽で目に留まりやすく、コストを抑えた大量配布に向いています。目的と予算に応じて選びましょう。 サイズにも特徴があります。角2封筒(A4サイズ)はビジネス感が強く信頼性を演出できます。一方で、A4はがきや横長はがきなどはデザイン性やキャッチコピーの見せ方で注目を集めやすい利点があります。

文章構成は特に重要です。冒頭にはキャッチコピーや問題提起を配置し、「自分に関係がある」と思ってもらう導線を作ります。そのうえで、課題に対する解決策や事務所の強みを伝え、問い合わせの方法やQRコードなど行動を促す要素を最後に配置することで、次のアクションへとつながりやすくなります。
形式と構成に戦略を持たせることで、DMは「読まれるだけで終わらない」、行動を促す営業ツールへと変わります。
DM営業に最適な形式と構成を選択する

よくある失敗例と改善ポイント

どれだけ丁寧に作成しても、DMが「読まれず終わる」原因の多くは、基本的な設計ミスにあります。つまり、ちょっとした工夫や視点の転換で、反応率は大きく変わる可能性があるのです。

まずよくあるのが、ターゲットが曖昧なまま送られているDMです。誰に届けたいのかが不明確だと、読み手の心に引っかかりません。「地域の法人向け」など広すぎる表現ではなく、「設立3年以内のクリニック経営者へ」など、絞り込んだうえで構成することが重要です。

次に多いのが、専門性が伝わらないこと。どの税理士でも言えそうな「丁寧・親身に対応します」といった表現では、違いが伝わらず、記憶にも残りません。過去の実績、得意業種、解決できる課題などを具体的に示すことで、相手は「相談してみようかな」と思いやすくなります。

さらに、問い合わせへの導線が弱いという点も見落とされがちです。電話番号やメールだけでなく、QRコードや簡易申込みフォーム、無料相談特典など、「行動しやすい仕組み」があることで、反応が生まれます。 DMは「届くこと」よりも、「動いてもらうこと」が目的です。失敗例を他山の石とし、改善につなげていく視点が欠かせません。
DMキャンペーンの失敗の分析

反応を得るための実践アイデア

DM営業の成果を高めるには、一度送って終わりではなく、「どう届け、どう印象を残すか」の工夫が大切です。特に税理士業務では、相手がすぐに動かないケースも多いため、記憶に残り、後から思い出してもらえる仕掛けが有効です。
ひとつ考えられるのが、ステップ式のDMです。1回で完結させず、2回以上に分けて情報を届けることで、認知→理解→行動という流れを自然に促せます。たとえば、1通目で自己紹介と専門分野を伝え、2通目で無料相談や事例を案内するという流れが効果的です。

新設法人向けであれば設立直後と決算期との二回構成などが考えられます。 次に、名刺やパンフレットの同封も有効です。DMに名刺を添えるだけでも“人”が見えることで親近感が生まれ、パンフレットで実績やサービス内容を補完することで、信頼感の醸成につながります。とくに封筒形式のDMであれば、複数資料を組み合わせて印象を強化できます。

さらに、送付のタイミングも反応率に直結します。決算期前や年末年始、開業シーズンなど、企業側の“動きやすい時期”を狙ってDMを送ることで、問い合わせにつながる確率が高まります。
このように、ただ送るのではなく、複数の要素を掛け合わせることで、DMはより強力な営業手段となります。
DM営業の成果をどのように高めるか

紙媒体だからこそできる“記憶に残る営業”

DM営業は、デジタル施策が主流になった今だからこそ、“記憶に残る営業”として再評価すべき手法です。メールやSNSが流れていく中で、紙媒体は手元に物理的に残るため、見返される機会があり、印象にも残りやすいという特性があります。

特に税理士業務は「信頼感」が意思決定に直結します。その点で、紙の質感や丁寧なレイアウト、読み手に合わせた言葉づかいは、信頼構築の一助となります。見込み顧客との初期接点として、DMは十分に活用の余地がある媒体です。 ただし、一度送っただけで結果が出るとは限りません。効果を見極めながら、リストの見直しや訴求内容の改善を継続的に行う姿勢が、成果につながります。反応率や問い合わせ件数などを計測し、PDCAを回す運用が鍵となります。

さらに、Web施策と併用することで、DMの効果はさらに広がります。たとえば、DMにQRコードを掲載して特設ページや動画に誘導する、Webで資料請求を受け付ける導線を用意するといった工夫で、紙とデジタルが相互補完的に働きます。 紙媒体だからこそできる“伝わる工夫”を戦略的に活かすことが、これからの税理士営業における差別化のポイントになります。
DM営業サイクル

【著者プロフィール】太田亮児(おおたりょうじ)|合資会社オオタキカク 代表
税理士・会計事務所の営業、マーケティング支援を行う。起業前は東京都内にある税理士法人に勤務してマーケティング業務を専任で手掛けた。2005年にオオタキカクを設立して独立。税理士事務所の個性を活かし各事務所の強みを磨き上げオーダーメイド式でマーケティングの仕組みを作り上げるサポートを行う。2010年に「税理士・会計事務所の儲かるしかけ」を同文館出版より出版し、税理士業界に特化したサービスを展開している。税理士向けの専門紙である税理士新聞(NP通信社発行)への連載記事を手掛けていたこともある。
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