第15号 一点二方向

s_201304-e1619584240665
「達人」の言うことが、仕事に活かされないわけがない。
今までも何度かお話したことがあるのですが、今回は私が知っている古流柔術の皆伝師範である、達人のお話を書いてみました。柔術でも武術、武道あるいは、あらゆる習い事は、仕事の在り方に直接的、間接的に良い影響を与える。と、私は信じています。中でもやはり、「達人の言うこと」「ある境地に達した人が表現する言葉」には深い興味と関心を抱かずにはいられません。

ちょっとした動きの中に、大変な術理が潜んでいるのです。
先日、学生時代にお世話になった古流柔術の道場へ遊びに行きました。本来であれば「稽古に」行く形なのですが、10年以上稽古を付けてもらっていませんでしたので、「稽古」というよりも「遊びに」行ったと言った方が正しい表現でしょう。私は学生時代その武術の先生にたくさんのことを学び、強い影響を受けました。「そのまま真似出来てしまうような目で見たものは、技とは言わない」ですとか、「いくら形が上手になっても本質が分かっていないと技に昇華しない」といった、一見何を言っているのか良く分からない禅問答のようなことが、10年以上経った今でも深く私の中に残っています。
この先生は、普通の道場であれば中々教えてくれないような、「口伝」(くでん)と呼ばれるような大切なコツやポイントといったものを、惜しみなく教えてくれます。教わる方としては、それを聞いて「凄いことを聞いた!」とか「自分も達人だ!」といったような気持ちになるのですが、実際にやろうとすると全くできません。
例えば「腕を上げる」とか「肘を下げる」などであれば、その部位を動かせば良いことなので、意識をすれば動かすことができます。しかし、その先生の稽古ではそういう体の動き自体については、あまり重要視していません。その先生曰く「そんなのは聞けば直ぐできることでしょ?」「そういうのは技じゃないんだよ」です。そして、どのようなことをおっしゃるかというと、「一点で二方向を作る」といったことを仰られます。これを体術の中でやろうとするのですが、普通の生活を送っている人間にはまず100%出来ません。訓練しないと出来ないことなのです。
「一点で二方向を作る」というのは、真っ直ぐの方向と、下の方向の二つの方向に、一点で二方向に、同時にベクトルを創り出すといったような意味です。もちろん、私は全くもって出来ません。真っ直ぐと、下にベクトルを作ろうとすると、自然と斜めの方向、つまり1方向にベクトルが向きます。でもそれは「一点で二方向を作る」ではなくて「一点で別の新たな一方向を作る」なのです。私はこの「一点で二方向を作る」という考え方(術理)が好きで、体術では全く出来る気配もありませんが、頭の中だけはそれが出来るようになりたいと思い、自分の仕事に照らし合わせながら物事を考える癖がつくようになりました。

「顧問先拡大」というものはまさにコレだとイメージをしています。「顧問先拡大」というと、売上を上げる、お客様を増やすなどが思い浮かびます。しかし、それだけではありません。その取り組みの中で、職員さんのモチベーションが上がる、お客様から更に感謝される、サービスの質が高まる。といったような別角度の副産物が「自然と」そして「同時に」得られないといけません。それが理想的な、正しい拡大の形であって、そういった形こそが「技」になるのだと私は考えています。とても欲張りですね(笑)。でも、私は「一点で二方向」を創り出す人を知っていて、その人の技を体感しています。人間は「一点で二方向」を作りだすことができるのです。だから、やってみたいのです。「一点で複数方向」を作り出す「顧問先拡大」を。

合資会社オオタキカク 代表 太田亮児
ニュースレター_note